2017年7月16日

【誠のFACT】「日本が国際化できていない」の原因は英語力ではない

(湯浅 誠/カクタス・コミュニケーションズ株式会社 代表取締役)

 

カクタスのリニューアルサイトにようこそ。新サイトでの初ブログ記事では「日本の国際化」について思うことを書きたいと思います。カクタスでは「国際化サービス」を謳っているのですから、当然このトピックについて触れておく必要があると思います。

世間ではよく「日本は国際化ができていない」と言いますよね。これ、何を意味するかは人それぞれではないかと思います。例えば「日本人は英語ができない」、「日本は世界基準で仕事がをしていない」、「日本人は外国の人たちとうまく仕事ができない」、などなど。でもやはり一番問題視されているのが日本人の英語力だと思います。

では日本人が全員英語がペラペラになったら日本は国際化するのでしょうか? 私は「No」だと思います。

英語力ということで言えば、私は大学卒業後にイギリスに留学し、その後弊社のインド本社でインターンとして働いていました。…と説明すると、ずいぶん英語がお上手だったんでしょうねとよく言われますが、自称まあまあ英語ができたイギリス留学時代の私が国際人だったかと聞かれたら、今の自分なら間違いなく「No」と答えます。当時の自分は 躊躇なく「Yes」と答えていたのでしょうが(笑)。

インド勤務経験を経て日本に戻り、日本で法人向けの「国際化サービス」を展開する企業の代表としてビジネスをする中で、「国際化とは何か?」を日々考えることが仕事になりました。その中で、イギリス時代を振り返り、英語ができただけの私には「国際人」として何が足りなかったのかが少しずつわかるようになってきました。

ひとことで言えば、それは「相手への理解」です。

イギリスという国には世界中から人が集まるので、それまで交流したことがなかった様々な国の人たちと接する機会が頻繁にありました。ちょうど私がイギリスに滞在していた頃にアメリカで9.11が起きたのですが、当時通っていた大学の同じクラスにアフガニスタン人の同級生が数名いました。無神経だった若かりし頃の私はテロのニュースを観て彼に「お前はタリバンを支持するのか?」、「人を殺した事はあるのか?」などと、まあとんでもない質問をしたことがあります。彼は超が付くほどの親日家で、私のろくでもない質問に丁寧に回答をしてくれましたが、同時に「今の質問で傷つく人もたくさんいるので気を付けた方がいい」と忠告してくれました。

また別のクラスにイラク人がいて、「彼はテロリストに違いない」と偏見を持ち、避けていたこともあります。海外に出たばかりの学生時代の自分は無知で、国際情勢に疎く、メディアの情報をもとに無意識に国や出身地域で人を判断し、差別することがよくあったのを覚えています。今の自分が振り返ると信じられないですが、当時はそれを疑問にも思いませんでした。

日本が、あるいは日本人が国際化するためには、偏見を持たず相手を理解する努力が第一に必要です。そういう意味で、日本が国際化できていないのは事実だと感じたエピソードが最近ありました。

数か月前、インド本社から日本に出張に来たIT技術者がいました。なかなかイケメンなのですが、少しやんちゃ顔の若いインド人です。彼が日本に到着した1日目、同行していた日本人社員は、そのインド人スタッフを道で待たせていた、たった数分間の間に警察につかまり職務質問を受けていたのを見て驚いたそうです。実際、本社から出張でくるインド人の多くが日本で職務質問をされた経験があるため、対策のためにパスポートを常に所持しています。

白人の欧米人や東洋人が道で数分立っていても、そんなに頻繁に職務質問に会うことはないでしょう。少なくとも日本の警察は外見や肌の色から特定の国や地域の人に歪んだイメージを持っているという印象を受けます。インド人はイスラム教徒も多く、「人相の悪いイスラム系」=「悪い人」という誤ったイメージを持っているのかもしれません。

もちろん国際化していないのは日本人だけではありません。特定の宗教や文化を持っていることで、相手を理解することができないケースもよくあります。わかりやすい例では、逆に先ほど書いたアフガニスタン人のクラスメートはイスラム教徒であったため、大学で女性の教師が教えているということが理解できず、批判していました。イスラム教では宗派によっては家庭以外の会社や学校などの社会生活に女性が混ざっている事自体が普通な状態ではないので、女性の先生が大学にいる事が理解できなかったのです。

そのクラスメートが女性教師に向かって「あなたはなぜ私の指導をしているんだ。家事はいいのか?そんな服装で外を出歩いていいのか?」と問い詰めている姿を見た時はびっくりでした。しかし、それを「イスラム教徒は男尊女卑でけしからん」と言ってしまえばそれで終わりで、そこからは相手への理解が進みません。一歩踏み込んで文化や考え方の違う相手を理解しようとすることが大切です。

この人はなぜそう思うのか、どんな教育を受けてきてそう考えるようになったのか、相手としっかり語り合うことで理解できることは沢山あります。自分の考えていることを頭から否定されて嬉しい人などいないので、先ずは相手の話を最後まで聞く。そして自分が思う事を伝える。これは何も外国の人と接する際に必要なスキルではなく、職場で考えが異なる人や自分に否定的な人と働く際に求められる事でもあります。国際化とは、結局のところ日常の人間関係の延長線上にあるものだと思うのです。

実際に、私はそのアフガニスタン人のクラスメイトとその後かなり親しくなりました。ある時はイギリスにいる彼のアフガニスタン人の友達 20名と一週間枕を共にし、彼らの国で起きている戦争の話や、イギリスに亡命してきた経緯や、彼らがいかにアメリカとロシアに利用されてきて、日本がどれ程アフガニスタンの復興に貢献したと考えているかなど、当事者からしか聞けない話をたくさん聞かせてもらいました。この時の体験は、彼らに対する考え方だけでなく、国や地域、宗教や文化を超えて「相手を理解する」ということの意味が自分の中で180度変わった体験でした。

国際化するためには何も特別なスキルが必要ではなく、基本は相手をリスペクトして理解しようと努力する事が何においても大切なのかもしれません。もちろん英語力はある程度ないとそもそも会話が成り立ちませんが、一番の問題は言葉の壁ではありません。

「日本は特殊な国だから」、「島国だから周りと違う」「単一民族なんだから(これは厳密にいうとあり得ない話ですが)」と自分達を特別だと思い、「外人は理解出来ない、自己主張ばかりする」と否定せず、相手を一人の人間としてしっかり理解すること。そして出身国や外見によるステレオタイプのイメージを捨てることです。

インド本社で勤務する前、私は「インド人はターバンに口髭でカレーを食べている」と本気で思っていました。もちろんターバンに口髭でカレーを食べているインド人も確かに存在しますが、もちろん全員ではありませんし、実際はマイナーです。インド人と働いていると言うと「インド人は自己主張が強いでしょう」と言う人がよくいます。これは事実で、私が一緒に働いているインド人の多くが普段自己主張が強いのは確かですが、こちら彼らのコミュニケーションスタイルを理解してそれに合わせ、自分の意見しっかり伝え、時には強い口調で主張すれば、100%自分の話を聞いてくれます。

英文校正や翻訳などの言語サービスを提供している企業の代表としてこんなことを言うのはおかしい気もしますが、「国際化」とは相手を理解すること、それが第一だと思います。言葉はそのための道具にすぎません。自分と違う人々を理解をするためには、まず世界を旅する。そして自分が生まれ育った地域とは異なる地域の現地の人たちとふれあい、彼らを理解しようと努力する体験をしてみることです。日本に滞在している外国人の場合は、わざわざ日本に来てくれている大切な友人として丁寧に接して、その貴重な機会を通じて彼らをしっかり理解すること。これが日本の国際化の第一歩だと思います。

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