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【まことのFACT】中国の分野別アカデミア事情と日本の今後 makotosfact2

前回のブログ記事で中国の研究費について少しお話をさせていただきました。恐らく国としてはイケイケドンドンで進んでいると思いますが、基礎研究への国からの直接投資額を見ると、それ程大きな金額には見えないと書かせていただきました。こちらについては今後半年で新たな知見が得られたら、改めてお話できればと思っています。

中国でも分野別でかなり事情が異なっているようですので、今回はそこを重点的に書いていこうと思います。まず日本でも言われている理系と文系の格差ですが、中国の方が更に大きい印象を受けました。今回お会いした方は皆さん大きな括りで言えば理系でしたが、ほとんどの中国人研究者が「詳しくは知らないけど、文系に研究費予算はほとんど投入されていないと思う。中国はもう明確すぎる程に科学技術に焦点を当てており、人文社会系は重要視されていない」とお話されていました。この現象は全世界規模で起きているのでしょうか?!

では重要視されている理系は全分野に予算が来ているのかというと、そうでもないようです。南京でお会いした准教授の方は環境学の研究をされています。どちらかというと応用よりは基礎科学中心の研究のようです。そのため企業との共同研究はあまりなく、また規模の小さい大学であるため研究費の獲得も苦労されているようでした。大学が生き残るために海外での研究経験をある人たちと国内のみの研究者を入れ替えしたいらしく、厳しい英語論文数のノルマが課せられています。よって学内でも必死の生き残りをかけ、このお客様はしばしば身銭を切ってでも私達にご依頼をしてくれていました。また依頼サービスも様々で論文の校正のみならず、中英翻訳、そして論文投稿サポートまで幅広くご利用いただいています。研究以外に教育活動が相当忙しいので、ご自分で論文をすべて英語で書いて、投稿から再投稿の準備までをすべてこなすのは時間的に無理のようで、「あなたたちに任せられるものは基本的に何でも依頼している」とのことでした。それで研究費では賄い切れないところはご自分で負担されているようです。

同じく南京の別の情報系大学の教授にお会いした際にいただいたお話は「教授になっても論文発表が少なく、研究費が少ないと、委員会や部会での担当をどんどん外されてしまう。自分が大学である程度のプレゼンスを維持するためには、この二つ(論文、研究費)はずっと必要。解雇される事はないが、結果が出ていないと様々な人事に影響が出るので、実際はあくせく論文を書いている」とのことでした。

ではメジャー大学ではどのような状況でしょうか?上海交通大学でお会いした2名の准教授(工学、情報学)のお話は色々と共通点がありました。かなり大学の経営が特徴的でしたので、要点を以下まとめてみました。

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1. 経営陣がかなりの裁量で人事権を行使しており、雇用安定は結果(論文、研究費)が相当の割合を占める。しかし中国独特の「人間関係」も同時にものをいうので学科長、学部長から気に入られるのは大変重要

2. 教員の給料の裁量も大学にあるようで、ベースを下げたり、また上げたりすることもある。上げる理由は主に海外からのスーパー研究者を雇用する場合で、人によっては数千万円相当の給与を払っている場合もある。逆にベースの給料は低く、業績により上積みされている。研究費をたくさん獲得すると、その一部を自分の給与にする事ができる

3. 大学を挙げて教員にベンチャー設立を促している。ただ大学から何らかのサポートがある訳ではなく、どちらかといえばトップダウンで奨励されている

4. 実際ベンチャーは設立されているのか?上海交通大学は抜群の知名度を誇るので、共同研究を希望する民間企業が多く(実は今の中国では我々の定義である純民間企業が半数以上あります)、共同研究を目的としたベンチャー立ち上げは積極的に行われている

5. その事情を反映してか、民間企業からの研究費支援は相当ある(お会いしたお二人とも政府系資金と民間資金は同額程度あるとお話されていました)。お話を伺っていると研究者から、民間と共同研究する事の抵抗感は全くない。むしろ一緒にやれることは積極的に行う姿勢。ただしこの話は有名大学限定で、小規模大学では稀。

6. 研究室の院生を卒業させるためには、SCIにインデックスされている英文誌での掲載が必須なので、学生の論文にかなりの時間が取られる。しかしそのノルマがあるので、各研究室から必然的に年間論文10本以上が掲載される

7. 学内には民間企業の広告や展示ブースなどもあり、日本の大学と違い、相当コマーシャルな匂いがしました。学問、研究の重要性は当然ですが、稼ぐ力も同様に求められるのが日本との違いのような気がします

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ここまで読まれて若干疑念を持たれる方もいるかと思います。「やりすぎだ」「節操がない」「拝金主義だ」などなど、私もなにかしら感じる事はあります。ただその一方でグローバル企業の一員として他の外国籍企業と争う時に感じるのが、勝つためのルールはあってないようなもの、そしてやったもの勝ちの世界でもあるということです。美しく試合をしても負けては意味がない。柔道がその例かと思いますが、一本のみを狙っても判定で負けてしまったらダメ。柔道の世界では、フランスを中心としてヨーロッパの柔道レベルが上がったために、日本的な柔道が変わり、今のグローバル柔道の形になりました。

私は日本のアカデミアが中国を見習うべきと思っている訳ではありませんが、中国で起きている熾烈な争いとそれに伴う論文数の増加(また最近では品質も上がって来ています)、大学のランクアップを見て、科学技術先進国としてどう対応していくかを考えたほうがいいと思います。日本のトップ大学の中長期目標を拝見すると多くの大学がTHE大学ランキング100位を目標としていますが、競合(中国、韓国)はなりふり構わず突き進んでいます。目標を掲げる以上、達成するための行動指針があると思いますが、ランキングは相対的評価なので自分達だけを見ていては意味がなく、海外の競合大学の動向にあわせて自分達を変えていかなければなりません。

「中韓と同じようには戦わない」と決めるのはもちろん問題ないと思いますが、その場合は一律ランキング100位ではなく、自分達の立ち位置だったり特徴をしっかり考え、「我々はランキングではなくてこの方向で進んで行く」との日本らしさを出す時期にいるのではないかと思いました。でもこのオンリーワンを貫くのは大変で、一貫性、忍耐そして各ステークホルダーに対する継続的な対話が求められます。

部外者が各国の諸事情を深く理解していないで好き勝手な事を言ってしまいましたが、ものすごい勢いで伸びている中国の内情を少し見てしまうと、正直普通の戦い方では勝ち目がないと思ったので、本記事でその状況について綴ってみました。

この記事を書いた人

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湯浅 誠

カクタス・コミュニケーションズ株式会社、代表取締役。1978年千葉県生まれ。大学を卒業後に渡英。その後インドに渡り、Cactus Communicationsに就業。現在は日本法人であるカクタス・コミュニケーションズ株式会社の代表取締役を務める。

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